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なにそのツンデ霊☆四人目★
- 1 :本当にあった怖い名無し:2006/06/19(月) 23:17:37 ID:2ued6Dho0
- 怖い話に出てくる女幽霊は実はツンデレなのではないかという新説を
検証してみるスレッドです。
前スレ
なにそのツンデ霊★四人目★
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なにそのツンデ霊★三人目★
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なにそのツンデ霊★2人目
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なにそのツンデ霊www1人目
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まとめサイト
http://www.tsunderei.org/
- 378 :彼の手記(一):2006/07/19(水) 20:17:20 ID:PzvKTRg8O
- 妙な事があったので書き留めておきたい。
私はもの書きの真似事で毎日の暮らしを立てており、一日中文机の前に齧り付いていることも珍しくない。
しかしこの季節の頃はどうにも暑い。原稿用紙に認めたはずのインクもなかなか乾くものではないくらいだ。
頭の回転も益々鈍ってしまって、結局汗を掻き掻き縁側に退散と相成る。
縁側は風が良く通るのだ。昼を過ぎれば良い具合に影が出来て、格好の避難場所となる。
家は草っぱらに臨んでいて、縁側からは丁度その草っぱらを一目に収められる。
今日も私は暑気に参ってしまったので、十四時を過ぎたあたりから縁側にからがら逃げて来た。
私は独り者であるので、だらしない格好でうろうろとして居ても、咎める者は居やしない。
じいじいと鳴く蝉の声を聞きながら、私はぼんやりと濃い色に染まった草っぱらを眺めていた。
あんまり暑かったものだから、私の見間違いだったのかも知れない。
何処の娘か知れないが、歳頃の娘が駆けて行ったのだ。
草っぱらを突っ切るようにして、私の視界の右から左まで、娘がだだだだだと駆けて行ったのだった。
はぁさて、どこの御転婆だ。随分脚が速いじゃないか。
そう思って娘が駆けて行った方を振り向いてみると、誰も居やしなかった。
私は暫く呆然としてしまった。
山に近いからか、狐か狸にでも化かされたのであろうか。
- 379 :彼の手記(二):2006/07/19(水) 20:19:44 ID:PzvKTRg8O
- 昼間書き留めたこの文章に続きを書けるとは思わなかった。
不思議を目撃した後、私は戸惑いながらも、おかしなことがあるものだ、くらいにしか考えていなかった。
そうして、夕刻を過ぎてうっすらと空が蒼くなり始めた頃、玄関に来客があった。
「もし」。家の中を渡って幾らかくぐもった声であった。はて誰かな、と思い思い私は応対に出た。
果たして、予期もしなかった、かの娘であった。
重たげな前髪であった。銅色の着物と小さな肩に乗ったあんまり黒々した髪から、娘は陰鬱そうに見えた。
「宿を貸していただきたいのです」。娘の声は更に鬱々としたものであった。
何か訳有りでろう、と私は思った。「このぼろ屋が宿場に見えるかね」。
私は投げ遣りに追い返そうとしたのだが、娘が口の端で笑んだ様な風に見えて、一時おかしく思った。
娘が何でもない様に重い前髪を掻き上げた。「盲でありますので判りません」。
私は鼻白まざるを得なかった。娘の眼を見て、醜悪だ、と思ったのだった。
娘の眼は、光を感ずるべくもなかった。潰れていたのだ。酷に醜く。
下手な刀で滅茶苦茶に突き回されたのではなかろうか、と最初に思ったのだった。
ぽそぽそと薄い眉から、真っ直ぐに白い鼻の背辺りまで、赤黒く爛れた皮膚しか見えなかった。
所々に皮膚が奇妙に引き攣っている様子もあった。
嘗て眼があったでろう場所には、さらに鮮烈な色でがたがたと傷痕が付けられていたのだった。
そうして、それらがどれくらいの年月を経た後であったのか、ばりばりと乾ききっていたのだった。
憐憫の念や同情らしきものを力任せに抑え付けてしまう程、その眼は奇態であった。
「宿場は不具者にやさしくありません」。「銭を持ちません」。「どうか」。
見るべくも無い表情で娘は平然とそこまで話した。また娘が口の端で笑んだ様な風に見えた。
「宜しいのですか」。私がはつと気付いたときには、どうやら私は娘に道を開ける様に退いていたのだった。
娘を奥の間に通した。かれは何処の誰なのであろうか。
- 380 :彼の手記(三):2006/07/19(水) 20:22:19 ID:PzvKTRg8O
- あの奇態な眼を間近で見ることになるであろうから、私はかれに近付くのは恐ろしい気がする。
しかしかれはその眼にあらゆる物を宿し得ない故、自然私が介助せずには居られない。
幸運であるのは、かれの重たげな前髪である。少なくとも、かれの眼を曝け出すことを防いでいる。
起床して直後、かれが居間戸の前にひっそりと座って居るのを見つけて、私は危うく声を上げそうになった。
私は厠までかれの手を引いて行った。頼り無さ気な掌であった。
腰を落ち着ける場所が判らないと言うので、私はかれを視界に収めぬようにして誘導してやった。
厠の戸を開け放ったまま用を足し終えたかれの手を引き、私は朝飯に取り掛かった。
ときどき汁物を零しながらも、かれが大凡丁寧に箸を使えることに私は少なからず驚いた。
かれが小魚の目玉だけを綺麗に刳り貫く様子は不気味でもあった。
かれの口の回りが汚れたので、私はかれの眼を視界に入れぬよう恐る恐る拭いてやった。
私が文机の前でぼそぼそと書き物をしている間、かれはじつと静かに居た。
一日の汗を流すため水を浴び、次いで頼まれ、かれの水浴を手助けした。
青白い、極端に痩せた身体であった。僅かばかりの丸みがようやく女性らしさを思わせた。
不健康そうな肌色であったが、局所ところどころに見られる紅色がどうも妖しく感じられた。
かれの手を引き奥の間まで連れて行ってやり、私は文机の前まで戻って来た。
今日は幾度と無く冷や汗を掻いた。
傷痕に占められた眼を除いては、かれにおかしそうな所は無い様である。
しかし娘にしては随分と平然で、恥じらいの気が足りない様に思える。
眼を見られぬせいか、歳の頃が正確に掴めない。もしか私が思うよりも歳若い子供であるのかも知れない。
特に、かれの独特な気配も、生まれ持っての気質のものなのか、目が見えぬからなのかも知れない。
- 381 :彼の手記(四):2006/07/19(水) 20:23:48 ID:PzvKTRg8O
- 昨夜幾らか外が騒がしかったので、獣の喧嘩があったのかも知れない。
朝見てみると、草っぱらに狐らしい動物が死んでいた。頭蓋が砕けていた。
獣同士の喧嘩ではない様だった。
鴉に突かれて目玉が綺麗に刳り貫かれて血を流していた。
昨日かれが魚の目玉を綺麗に穿った姿が思い浮かんだ。
明るいうちから何かが怖くなって、鴉を遮二無二追い払い私は暫し瞼を閉じていた。
今日は昨日と同じように生活を繰り返したのだった。
かれは平然であった。
- 382 :彼の手記(五):2006/07/19(水) 20:25:08 ID:PzvKTRg8O
- 目玉を頂きたく思います。
- 383 :彼の手記(六):2006/07/19(水) 20:26:47 ID:PzvKTRg8O
- 昨夜私が書き付けた後、私の知らぬ一文が挿入されている。
目玉を頂きたく思います。わたしに宛てた文であろうか。恐らくその様に思われる。
しかしかれは目が見えぬ筈である。朝飯を終えた今もじつと静かに居る。
「これは君が書き付けたのかな」。自分で判ずる前に、私は思わずかれに向かって言ってしまった。
「どれでしょう」。やはりかれは文等書き得ぬはずであった。
実際は大分外れていたが、かれはわたしが居ると思われる方を向いた。やはりかれに文など書けぬはずであった。
かれは無表情であった。
「いや」、何でもない。
「どの文でしょう」。
私は一刻も早く向き直ったのだった。何故「文」などとかれは言うのか。私は夏の気候が途端寒くなった。
かれは依然として平然であった。
果たしてかれが書き付けたのであろうか。
- 384 :彼の手記(七):2006/07/19(水) 20:28:17 ID:PzvKTRg8O
- 旦那様は寝相が宜しくありません。子供の様です。
なかなか上手く目玉が取れません。
- 385 :彼の手記(八):2006/07/19(水) 20:30:59 ID:PzvKTRg8O
- まただ。何時の間に書き付けているのであろうか。
私が就寝直前に眺めた頃にはまだ無かった二行の筈である。
かれが私の枕元であの眼を私にぐいと近付けて私の目玉を突きながらつらつらと書き付ける。
今、私はぐつと吐気を堪えた。
ここに居ては危険なのではないだろうか。
一刻も早くこの家から、いや、かれから遠ざかるべきなのではないだろうか。
此処に来てからじつとしてなかなか動きもしなかったかれが、昨夜から頻りに首を回している。
私の姿を、その潰れた眼で探しているのではないだろうか。
この家には私とかれとしか居ないはずなのに、強い視線を感じるのだ。恐ろしい。
- 386 :彼の手記(九):2006/07/19(水) 20:32:41 ID:PzvKTRg8O
- 旦那様は頻りに顔の汗を拭いますので、目玉を取り出しにくいです。
明日は雨が降りますから夜も幾らか涼しいでしょう。汗も掻きません。
- 387 :彼の手記(十):2006/07/19(水) 20:35:24 ID:PzvKTRg8O
- 雨が降っている。
私はこの二行を見た後、余りに恐ろしさが勝って、かれを置いて街へ下り友人の住まいに身を寄せている。
かれをあのぼろ屋に置いて行く事に躊躇が無かった訳ではない。しかし恐ろしかった。
友人は大いに驚いたが、訳も聞かずに居てくれる。有難い。
しかし、どういうことであろうか。
かれを家に入れたその日から数日の間、ずっとかれと共に暮らしたせいで情が出来たのであろうか。
落ち着いてみれば、気味が悪いのに違いないのだが、私はかれのことが気になって仕方が無い。
かれは一人で厠に行けず戸惑っているのではなかろうか。
手探りで歩いては転んでいるのではなかろうか。血の気の無い肌色を赤く腫らしているのではなかろうか。
涙を堪えているのではなかろうか、口だけを歪めて。
食事もままならず、私を待っているのではなかろうか。憮然ともせず、あの無表情で。
腹を空かせているのではなかろうか。やはりあの細身でも辛く思っているのではなかろうか。
今時分は、じつとして座って居る頃だろうか。
私が居ないのを少しでも落胆して、かれは何をも映さぬ眼の上で、薄い眉を下げてはいまいか。
- 388 :彼の手記(十一):2006/07/19(水) 20:37:31 ID:PzvKTRg8O
- もう大丈夫で(以下数十文字、歪字。判読不能)
- 389 :彼の手記(十二):2006/07/19(水) 20:39:51 ID:PzvKTRg8O
- かれから離れたにも拘らず、新しく文章が追記されているのに私は驚いた。
しかし前の文等がはっきりと楷書体で書き付けられていたのに対して、こちらの文章は走り書きである。
最初の数文字は「もう大丈夫で」とまでなんとか読むことが出来るが、後の文字等は歪みが激しく判読がつかない。
これは一体どういうことであろうか。かれから離れたせいであろうか。
私は電車に乗っている。
やはりかれのことが気になって仕方が無い。家に戻るのだ。
- 390 :彼の手記(十三):2006/07/19(水) 20:42:48 ID:PzvKTRg8O
- さて、どこから書こうか。結論から書こう。
かれはもう死んでいた。私はどうやら亡霊の類と暮らしていたようだ。
私が友人宅から家に戻ると、何が起きたのか、家の中は血に染まっていた。
玄関も、廊下も、畳も、布団も、板張りの壁も、あらゆるところに血が滴っていた。
居間は天井にさえ血が噴き散っており、赤黒い血溜りが出来ていた。
私はかれを求めて家中を走り回ったが、結局かれは居なかった。代わりに血塗れの男が裏口に突っ伏して事切れていた。
警察に事情を話せば、まずは重要参考人だとの事で、暫く身柄を拘束された。
その後、友人等の証言や男の死亡時刻とのすり合わせから無罪確定とされ手荒に放免された。今に至る。
私は警察で絞られる間、何度もかれのことを尋ねた。その度に警官等は不可思議気に視線を交し合った。
どうやら死んだ男、十年程前より全国手配中であった凶悪犯らしく、かれを殺した男であった。
警察は勿論、かれと暮らしたと言う私の戯言になど耳を貸さなかった。
男の死因は恐らく野犬等獣の類に集団で襲われた、と結論付けられた。男の身体中に喰い千切られた歯形が残されたらしかった。
男がかれを殺したのは十年程前。惨殺であった。
必死で逃げ惑うかれを追い、捕まえ覆い被さり残虐な行いをしたのであろう、との事であった。
特にかれへの眼の傷害は凄まじいものだったそうだ。
私の取調べを仕切った男は、罰が当たったんじゃないか、等と言って適当に私の言葉をあしらっていた。
もう一度書こう。
かれは、もう死んでいた。私はどうやら
何故涙が止まらないのであろうか
- 391 :彼の手記(十四):2006/07/19(水) 20:45:37 ID:PzvKTRg8O
- かれは何故私を訪ねて来たのであろうか。自らを殺めた男の影を追い縋って来たのではなかろうか。
かれは何故私を怯えさせたのであろうか。私を一刻も早く男の影から遠ざける為ではなかろうか。
私がかれのことを恐れ震えて電車に揺られているとき、かれは何を思い何を為していたのであろうか。
男の死因は獣の類に襲われた事になった。
きっと、かれは見えぬ眼に復讐の火を宿し、あの細腕で男に組付き男の咽喉を噛み潰したのであろう。
細々としたかれが、家中を逃げ惑う男を組伏せ、男を惨めったらしくなるまで千切り続ける様は、さぞかし痛快であったろう。
しかし男を打ち捨てた後、かれは泣かなかったろうか。かれの眼は、涙も流せぬ程潰れてしまったろうか。
どうして私はその時に居てやれなかったのだろうか。
どうしてであろうか。
どうして、かれの、醜悪とさえ思われた眼が、どうして、是程までに恋しくなるのであろうか。
- 392 :かれの手記(終):2006/07/19(水) 20:48:02 ID:PzvKTRg8O
- もう大丈夫です。早くお帰りください。旦那様のお宅を汚してしまい、本当に申し訳ありません。
また、見苦しい眼創をお見せして申し訳ありませんでした。
夏とは言え、涼しい夜もあります。風邪など召されませぬよう。
旦那様がお仕事をなさいますお背中はとても頼もしく思われました。
わたくしが生きていますれば、きつと旦那様と釣り合う位の歳頃であったことを思うと、口惜しくてなりません。
お仕事をなさいます時は、もう少し姿勢を良くなさいませんと眼を痛めます。お気を付けください。
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